本物を作る会社は、何を発信すべきか
価値を作ることより、情報を操作することが報われる。その構造の中で、誠実に作る会社に残された手段を考えます。
この連載の1本目で、こう書きました。「良いものを作れば伝わる」が成立しなくなった理由は、発信量にはない。
最後の1本で、その理由を書きます。
「作る」から「操る」へ
かつて日本経済を支えていたのは、現場の技術が結晶した価値そのものでした。職人が一つひとつに時間をかけ、企業が誠実に顧客と向き合い、その積み重ねが評価されていました。
いまのビジネスの中心は、いかに価値を作るかから、いかに情報を設計し、注意を引くかへ移っています。
誠実な努力よりも、巧みな情報設計のほうが市場で報われる。本物を作り続けてきた企業にとっては、理不尽な逆転です。
逆転の正体は、評価されるものの違いです

価値を作る ★ 時間がかかる。結果が出るまで長い。模倣されにくい
情報を操作する ★ 速い。結果がすぐ出る。模倣されやすい
市場は、速く結果が出るほうを先に評価します。そして評価されたものに資源が集まり、さらに速くなる。
この循環の中では、時間のかかる側が構造的に不利になります。
ただし、ここには続きがあります。模倣されやすい手段は、全員が使えば差がつきません。情報設計で先行した優位は、やがて平均に戻ります。
残るのは、模倣にコストがかかる側です。
誠実さは、戦術として機能します
9月8日の記事で、シグナリングという考え方を扱いました。質の低い側が真似すると損をする行動だけが、質を伝える手段になる。
出典と年次を出す ★ 古い数字だと分かるので、盛れなくなる
反証を書く ★ 自分の主張が崩れる条件を先に示す
できないことを明示する ★ 受注の機会を自分で減らす
適用範囲を限定する ★ 「全業種対応」と言えなくなる
どれも短期的には不利です。不利だからこそ、真似されにくい。
誠実さを道徳として語ると、やるかやらないかの話になります。シグナルとして扱えば、それは手段です。本物を作る会社が使える手段の中で、最も模倣コストが高いものだと考えています。
作る側として、何を発信するか
私たちが進化するシステム開発で実際にやっていることを書きます。
Build / Configure / Operate / Defer という4分類を、相談の最初に行います。
Build 個別開発する
Configure 既存のSaaSや基盤を設定する
Operate 運用ルール・担当者・会議体で解決する
Defer ★ いまはやらない
この分類を公開していること自体が、シグナルです。相談された内容をすべて開発対象にすれば、費用も期間も増えます。作らない判断を先に示すと、受注できる範囲が狭くなります。
既存のSaaSや業務システムを否定せず、まず連携できるかを確認し、それでも対応できない部分だけを開発する。この順序も、受注額を自分で下げる方向に働きます。
不利な行動を公開することが、作る力の証明になる。この連載で扱ってきた構造を、自社に適用するとこうなります。
反証:シグナルだけでは、時間が足りません
限界を書きます。シグナルが効くには、見てもらう必要があります。
誠実な発信を続けても、誰の視界にも入っていなければ、質の識別以前の問題です。この段階では、量を増やすほうが正しい。
見分ける目安は、同じ相手から2回目の接触が起きているかどうかです。1回も届いていないなら量、届いているのに動かないなら質の識別の問題です。
もう1つ。シグナルにはコストがあります。反証を書けば主張は弱く見え、できないことを明示すれば案件は減る。事業の体力がない段階で徹底すると、シグナルを送り終える前に力尽きます。
どこまでやるかは、経営判断です。
そして最後に。この記事自体が、その手段の実演になっています。反証を書き、できないことを書き、それでもサービスへのリンクを置いている。読んでいる側からすれば、手の内が見えている状態です。
見えていても機能するかどうかは、まだ分かりません。
次の連載へ
この連載では、作ったものの価値が伝わらない構造を扱いました。次は、強みそのものが不利に働くという話に入ります。
丁寧さが遅さに、謙虚さが無名に、継続性が鈍さに変わる。
次の連載では、4本かけてそこを扱います。
この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。