成長を生むのは Result(結果)か、Process(過程)か
Process(過程)が成長を生むなら、なぜ市場に流通しているのは Result(結果)だけなのか。移転可能性という論点。
目次
ここは、ALTEVOが記事を置く場所です。最初の記事なので、結論ではなく論点から始めます。
先に用語を定義します。本稿の Process(過程) は、業務プロセス管理(BPM:Business Process Management、業務手順の標準化と改善を扱う領域)より広く取ります。意思決定が通る経路、つまり情報がどこで生まれ、誰を経由し、どの決裁権限で判断に変わるかまでを含みます。
前半は、たぶん合意が取れます
企業を成長させるのは Result(結果)か、Process(過程)か。
この論争はおおむね決着しています。Result(結果)は測定対象であって、生成装置ではない。四半期の数字を睨んでも数字は増えません。増えるのは、数字を生んでいる Process(過程)を変えたときだけです。
多くの企業は「Result(結果)で測り、Process(過程)で作る」という位置に落ち着いています。KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の多くは結果指標であり、それを動かす先行指標が別にある、という理解も広く共有されています。
ここまでは、おそらく異論が少ない。問題はその先です。
では、成功事例から転用できるのはどちらですか
この論点を transferability(移転可能性:ある組織で成立した仕組みが、別の組織でも成立するかどうか) と呼びます。
Process(過程)が成長を生むなら、優れた Process(過程)を転用するのが最短のはずです。実際、企業が外部に対して行う行為の多くは、その意図で設計されています。
ベンチマーク 他社の Process(過程)を測る
導入事例の研究 他社の Process(過程)を読む
中途採用 他社の Process(過程)を人ごと採る
パッケージ導入 標準化された Process(過程)を買う
ところが、市場に流通しているのは Result(結果)のほうです。理由は3つあります。
1. 公開されている事例は、成功だけで構成されている — Survivorship Bias(生存者バイアス)
Survivorship Bias(生存者バイアス)とは、生き残った事例だけを見て全体を判断してしまう誤りのことです。
公開されるのは成功した導入だけです。同じ製品を入れて定着しなかった企業は、事例になりません。失敗した事例が、最初から比較の対象に入っていない。
したがってベストプラクティス(best practice:業界で最良とされる実践例)をいくら集めても、成功確率は推定できません。分かるのは「うまくいった場合に何が揃っていたか」だけです。投資判断の材料としては、かなり弱い。
論点:直近で参照した事例は、何社のうちの1社でしたか。同じことを試して公開されなかった企業を、数えたことはありますか。
2. 記述できる範囲に上限がある — Tacit Knowledge(暗黙知)
事例に載るのは explicit knowledge(形式知:言語化・文書化できる知識) です。導入した製品、変化した数値、設置した体制。
載らないのは tacit knowledge(暗黙知:経験や勘として個人に蓄積され、言語化しにくい知識) の側です。誰が反対し、どの順で合意が形成されたか。どの業務を先に停止したか。決裁権限が実際にどこにあったか。役員会に上がる前に、誰が論点を削ったか。
省略は作為ではありません。前提をすべて記述すれば読まれない。ただし再現条件は、記述されない側に偏在します。
論点:自社の成功を事例として公開するとき、書けない部分はどこですか。そこが本当の Process(過程)ではありませんか。
3. 移植先の土台が違う — Path Dependence(経路依存性)
ある環境で観測された効果が、別の環境でも再現するとは限りません。研究では external validity(外的妥当性:ある条件下の結果が、他の条件でも通用する度合い) と呼びます。
企業における条件は、大部分が構造です。そして構造には path dependence(経路依存性:過去の選択が現在の選択肢を制約する性質) があります。現在の operating model(オペレーティングモデル:組織・業務・システムを組み合わせた事業運営の仕組み)は、過去に選択された判断の履歴の上に積み上がっている。どの部門が先に立ち上がったか。どのシステムを先に入れたか。誰が誰に報告してきたか。
同じ道具を置いても、土台が違えば挙動が変わります。移植の失敗を「実行力の差」で説明するのは、たいてい後付けです。
論点:その履歴を説明できる人は、社内に何人残っていますか。
ALTEVOの立場
Process(過程)が成長を生む。しかし Process(過程)は市場で買えない。
この2つを同時に認めると、結論は1つになります。Process(過程)は、自社で設計して自社に実装する以外にない。外から買えるのは Result(結果)と、Result(結果)を生むための道具までです。
そのうえで、設計対象を具体化します。Process(過程)とは経路のことです。情報がどこで生まれ、誰を経由し、どの決裁権限で判断に変わるか。この経路が可視化されて初めて、Result(結果)は再現可能になります。可視化されていない Result(結果)は、成功であっても偶然と区別がつきません。
私たちが企業に搭載しようとしているのは、閲覧するダッシュボードではありません。この経路そのものです。BI(Business Intelligence:業務データを意思決定に使える形に変える仕組み)を、画面ではなく意思決定基盤として実装する。「企業にBIを搭載する」という表現の中身は、それです。
ただし、これは仮説です。反証のほうが有益です。
反証:Result(結果)を買うほうが合理的な局面
時間を資本で買う判断は、しばしば正しい。
前提条件が近い場合、external validity(外的妥当性)は十分に高くなります。業種、規模、工程、顧客構造が揃っているなら、標準化された Process(過程)をそのまま導入するほうが速い。M&A による能力獲得も、経験者の採用も、同じ論理の上にあります。自社設計は、そこでは遠回りです。
Process(過程)への投資が正当化されるのは、Result(結果)を買ったのに定着しなかった経験がある場合です。一度失敗しているなら、原因は道具ではなく、道具が置かれた場所にあります。
この場所の作法
議論の場にしたいので、3つ決めています。
煽らない。 恐怖は行動を早めますが、判断の質を下げます。急かされた意思決定は、事後に検証できません。
出典のない数字を使わない。 推計は推計と書き、統計には年次を添えます。確認が取れないものは、数字を出さずに構造だけを書きます。
反証を必ず入れる。 どの条件で自らの主張が崩れるかを示せない主張は、検証不能です。私たちが設計時に守る原則の1つに Explainable(説明可能性:判断の根拠を後から追える状態を保つこと) があります。システムに課している基準を、記事にも課しています。
あなたはどう考えますか
3つ置きます。1つでも構いません。
- 自社が伸びた局面で効いたのは、Result(結果)の管理でしたか、Process(過程)の設計でしたか。
- Process(過程)は移植可能だと思いますか。可能だとすれば、どの範囲までですか。
- 自社の Process(過程)を、社外の人間に30分で説明できますか。できないとしたら、それは資産ですか、リスクですか。
業種も規模も違う視点が並ぶほど、構造は見えやすくなります。異論のほうが有益です。
来週から
すでに公開している「日本経済の構造的課題」というページがあります。7つの構造的阻害要因を並べた地図です。
9月14日(月)から5日間、そのうちの4つを1日1つずつ分解します。最終日に、ALTEVOが介入できる範囲と、できない範囲を示します。
最初の論点はこれです。やることが増えるほど、やるべきことが見えなくなる。この逆説は、どこで生まれるのか。
この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。