25の症状と、1つの構造
6週間で25の課題を扱いました。別々の問題に見えて、どれも同じ場所に行き着きます。その場所を書きます。
最初の記事で、こう書きました。
これを25個の問題だとは考えていません。1つの構造から出ている、25の症状だと考えています。その構造が何かは、最後に書きます。
ここで、答えます。
25の症状を並べます
6つの連載で扱った対象は、ばらばらです。情報、組織、承継、財務、技術、そして企業の美点。別々の問題として始めました。
ところが、各連載の最後は、毎回同じ場所に行き着いていました。

情報と判断 どの数字を正とするか、決めた記録がない
現場と経営 報告から何が削られたか、記録がない
知の継承 なぜその判断なのか、記録がない
数字と実態 取引条件をいつ誰が決めたか、記録がない
つくる力 どこでは成立しないか、記録がない
強みの反転 何のためにそうしているか、記録がない
これは、後からまとめたものではありません。各記事の中で、それぞれ別の理由から同じ結論に達しています。
1つの構造
判断が生まれた過程が、記録されていない
25の症状は、ここから出ています。
情報が多すぎるのではありません。どの情報を正とするか決めた記録がないので、毎回その場で決め直しているだけです。
現場の声が届かないのではありません。届く途中で何が削られたかが残らないので、削られたこと自体が見えないだけです。
知が失われるのではありません。判断の理由が残っていないので、人が辞めると理由ごと消えるだけです。
数字が嘘をついているのではありません。その数字がどの前提で作られたかが残っていないので、実態とずれても気づけないだけです。
なぜ、記録されないのか
ここまでは症状の説明です。では、なぜ過程は記録されないのか。
理由は3つあります。どれも、個人の怠慢ではありません。

1. 決定は残るが、理由は残らない
決定は、次の作業に必要です。承認された、受注した、条件を合意した。これらは業務が進むために参照されるので、必ずどこかに記録されます。
理由は、次の作業に必要ありません。なぜ承認したか、なぜその条件にしたか。その時点では、本人が覚えています。だから書く必要がない。
記録されるかどうかは、重要性ではなく、直後に参照されるかどうかで決まります。理由が必要になるのは、たいてい数年後です。
2. 記録を求めるほど、報告は減る
「経緯も残してください」と決めた瞬間、記録のコストが上がります。コストが上がれば、件数は減ります。
記録を増やそうとして、データが減る。現場では、これが頻繁に起きます。
3. 評価に使われると、宛先が変わる
これが最も根深い。
記録が人事評価に使われると分かった瞬間、書く相手が変わります。あとで読む自分ではなく、評価する側に向けて書くようになる。
「見送った」が「保留した」になる。判断を避けた事実が、慎重な検討として記録される。
内容が変わるのではありません。宛先が変わっています。内容の問題なら書き方の指導で直せますが、宛先の問題は直せません。
序章に戻ります
6週間前、序章でこう問いました。
成功事例から移転できるのは、Result(結果)か、Process(過程)か。
そして、こう書きました。Process は買えない。

Result 移転できる。ただし、再現しない
Process 移転できない。★ ただし、残すことはできる
「買えない」と「作れない」は違います。
他社の過程を買うことはできません。業種が違い、顧客が違い、積んできた時間が違うからです。ただし、自社の過程を残すことはできます。
そして、残っていれば後から辿れます。辿れれば、前提が変わったときに「変えていい」と判断できる。変えていいと分かることが、適応の速さです。
この6週間で扱ってきた25の課題は、すべてこの一点に関わっていました。
ALTEVOはこう考えています
私たちが設計対象にしているのは、画面でも、道具でもありません。
判断の過程が残る経路です。
どの数字を正とするか、誰がいつ決めたか
報告から何が削られ、どこで止まったか
その判断が、どの前提で下されたか
何を見送り、なぜ見送ったか
これらが、使われる場所の隣に残っている状態を作ります。別のフォルダに保管された記録は、必要な瞬間に開かれません。
企業搭載型BIという言い方をしていますが、中身はこれです。情報を増やす仕組みではなく、増えた情報の過程を辿れるようにする仕組みとして設計しています。
共進化パートナーでは、7つの領域から現状を確認するところから始めます。何が残っていて、何が残っていないか。新しい仕組みを入れる前に、そこを見ます。
私たちに解決できないこと
この6週間、各連載で書いてきたことを、ここにまとめます。
人が発言する勇気
経営者が、悪い報告を受け止める姿勢
記録を評価に使わないという約束
企業文化そのもの
測れないものを、測れるようにすること
経路は作れます。そこに何を書くか、書いたものを読みに行くか、読んだあとにどうするかは、組織の側の判断です。
特に3つ目は、仕組みの外側にあります。権限設計でもワークフローでも、宛先の変化は防げません。
そして最後の1つは、原理的に不可能だと考えています。測定は対象を変質させます。点数にした瞬間、点数が最適化されて、元の性質は失われる。
私たちができるのは、測らずに扱う方法を用意することまでです。
反証:記録がなくても回る組織
はっきり書いておきます。記録が何もないのに、健全に回っている組織は実在します。
人数が少なく、全員が同じ場所にいて、判断が数分で共有される場合。この規模では、記録より会話のほうが速くて正確です。記録を導入すると、速度が落ちるだけになります。
境界はおおよそ、経営者が全員の仕事を把握できる人数です。それを超えると、把握が推測に変わります。推測で回している状態が続くと、ある日ずれが表面化します。
もう1つ。この6週間で書いてきたことは、すべて「見えるようにする」方向の提案です。見えるようになると、見たくないものも見えます。
それを引き受ける準備がないまま可視化すると、組織は防御に回ります。数字が良く見えるように運用され、記録は形式だけになる。
準備ができているかどうかは、私たちには判断できません。そこは経営の判断です。
最後に
6週間で、25の課題を扱いました。
どれも、気合いや意識で解決する話にはしませんでした。構造として説明し、その説明が崩れる条件を毎回書きました。
崩れる条件を書くと、主張は弱く見えます。それでも書いたのは、崩れる条件を知らないまま使われるほうが、害が大きいと考えたからです。
書いたことのうち、どれが自社に当てはまり、どれが当てはまらないか。判断は、読んでいただいた方がします。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。