読了 約6分 企業搭載型BI

声が届かないのは、量の問題ではない

誠実な企業ほど発信で不利になる理由は、情報の多さではなく、質を見分けられないことにあります。

連載 情報は、判断に変わらない 第3話/全3話
検証できる主張と誰でも言える主張が受け手から区別できず、平均で評価される構造の図
目次
  1. 「情報が多すぎる」では、説明になっていません
  2. 見分けられない市場では、良いものから消えます
  3. 対抗手段は、量ではなく「模倣にコストがかかる行動」です
  4. 同じことが、会社の中でも起きています
  5. ALTEVOはこう考えています
  6. 反証:単に発信量が足りていない場合
  7. 次回から

前回、経験則を検証するには外からの情報が必要だと書きました。市場が変わった、顧客の使い方が変わった、前提が古くなった。そうした情報は、たいてい社外から来ます。

ところが、その声は届きにくくなっています。今回は、その理由を扱います。

「情報が多すぎる」では、説明になっていません

良いものを作っている会社ほど、発信では不利になる。この現象はよく指摘されますが、原因を「情報過多」で止めると、対策は「もっと発信しよう」になります。

それはノイズを増やす行為です。全員が同じ結論に至れば、総量が増えて、また同じ状態に戻ります。

原因は量ではありません。量が増えた結果、質を見分けられなくなったことです。

見分けられない市場では、良いものから消えます

経済学に adverse selection(逆選択:買い手が品質を見分けられない市場では、質の低いものが残りやすくなる現象) という考え方があります。1970年に中古車市場を例に示された議論で、いまも広く参照されています。

構造はこうです。買い手から品質が見分けられないと、買い手は平均的な品質を前提に値段を決めます。すると、平均より質の高い売り手にとっては割に合わない。質の高い側から順に、市場を離れていきます。

情報の世界でも同じことが起きます。

発信A  検証できる主張   出典があり、条件が書かれ、限界も示されている
発信B  誰でも言える主張  断定的で、条件がなく、限界が書かれていない

受け手から見て、AとBは同じ「情報」に見えます。むしろBのほうが短く、強く、分かりやすい。結果として、Bが読まれます。

Aを作るには時間がかかります。読まれないなら、作る理由がなくなる。こうして、検証できる主張から先に減っていきます。

対抗手段は、量ではなく「模倣にコストがかかる行動」です

ここで使えるのが signaling(シグナリング:言葉ではなく、コストのかかる行動によって質を伝える仕組み) という考え方です。

誰でも言えることは、シグナルになりません。「品質にこだわっています」は、質の低い会社も同じコストで言えます。だから情報になりません。

シグナルになるのは、質の低い側が真似すると損をする行動だけです。

シグナルになるのは、真似すると損な行動だけ

どれも、短期的には不利な行動です。不利だからこそ、真似されにくい。

私たちがこの連載で毎回反証を入れているのは、丁寧さの表明ではありません。それ以外に、質を伝える手段がないからです。

同じことが、会社の中でも起きています

ここまでは社外の話でした。ただ、この構造は社内でそのまま再現します。

社内の情報も増えました。ダッシュボード、レポート、日報、チャットの記録。受け手である経営者から見ると、それらは同じ「数字」に見えます。

どこから来た数字か        分からない
誰が定義した数字か        分からない
いつ時点の数字か          分からない
検証されたのか、推測なのか  ★ 分からない

見分けられないので、平均的な信頼度で扱われます。そして、丁寧に作られたレポートから先に読まれなくなります。社外で起きていることと、同じ構造です。

ALTEVOはこう考えています

この状態を放置すると、社内でも良い情報から先に消えます。時間をかけて検証した報告ほど読まれず、作る人がいなくなる。市場で起きていることが、そのまま組織の中で再現します。

だから私たちは、情報を増やす仕組みではなく、増えた情報の質を見分けられるようにする仕組みを事業にしています。

私たちが「企業にBIを搭載する」と言うとき、指しているのは画面のことではありません。その数字がどこから来て、誰が定義し、いつ時点で、何を根拠に出されたかが追える状態のことです。ダッシュボードは、その状態が作られた後の表示手段にすぎません。

これは設計上の原則から来ています。私たちがシステムを作るとき、説明可能性(Explainable:判断の根拠を後から追える状態を保つこと)を前提条件に置いています。記事に反証を入れているのも、同じ基準を自分に課しているだけです。

企業搭載型BIが具体的に何を持つ仕組みなのかは、別ページにまとめています。

ただし、これは仮説です。

反証:単に発信量が足りていない場合

この議論には、はっきりした例外があります。そもそも露出がゼロに近い会社です。

質を見分けられないという問題は、受け手の視界に入っていることが前提です。視界に入っていなければ、識別の話は始まりません。この段階では、まず量を増やすほうが正しい。

見分ける目安は、同じ相手から2回目の接触が起きているかどうかです。1回も届いていないなら量の問題、届いているのに動かないなら質の識別の問題です。

もう1つ。シグナルにもコストがあります。反証を書けば主張は弱く見え、できないことを明示すれば案件は減ります。事業の体力がない段階でこれを徹底すると、シグナルを送り終える前に力尽きます。どこまでやるかは、経営判断です。

次回から

外の声が届かない構造を見てきました。同じ構造が、社内ではもっと露骨に現れます。

現場は見えています。何が起きているか、誰が困っているか、どこで止まっているか。それが経営者に届くまでに、何度も加工されます。悪意ではありません。

次回から5本、そこを扱います。

次回

次回から「現場は、経営に届かない」に入ります。社内でも、同じことが起きています。

この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。

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