読了 約6分 設計思想

「うちのやり方」は、いつ資産から負債に変わるか

経験則は実際に当たる。ただし当たる領域と外れる領域は、条件で分かれています。その境界を図にしました。

連載 情報は、判断に変わらない 第2話/全3話
環境の規則性と結果が返る速さの2軸で、経験則が強い領域と危うい領域を分けた四象限の図
目次
  1. 経験則は、実際に当たります
  2. 直感が機能する条件は、2つだけ
  3. バイアスは、順番に組み込まれます
  4. ALTEVOはこう考えています
  5. 反証:記録が重すぎると、誰も書きません
  6. 次回

前回、判断の基準が更新されていないという話を書きました。ではその基準は、いまどこにあるのか。

多くの会社では、制度でも文書でもなく、経験の長い人の頭の中にあります。

経験則は、実際に当たります

先に確認しておきたいことがあります。経験に基づく判断は、精度が高い。

長く続いた会社の経営者は、取引先の様子や現場の空気から、数字に出る前に異変を察知します。分析より速く、しばしば正確です。これは思い込みではなく、実際にそうです。

したがって「勘に頼るのをやめて、データで判断しましょう」という助言は、多くの場合、実務的に間違っています。精度の高い判断を、精度の低い分析に置き換えることになるからです。

問題は別のところにあります。経験則は、当たる領域と外れる領域が、条件によってはっきり分かれるという点です。

直感が機能する条件は、2つだけ

判断研究では、専門家の直感が機能するには2つの条件が必要だとされています。

① 環境の規則性    同じ原因が、同じ結果を繰り返し生む場であること
② 学習の機会      その結果が、本人に返ってくること

②は言い換えると、結果が返る速さです。判断してから答え合わせができるまでの時間が短いほど、経験は精度に変わります。逆に、返ってこない、あるいは何年も後にしか返らない判断では、何度繰り返しても学習が起きません。

この2軸で分けると、経験則の効く場所と危うい場所が見えます。冒頭の図が、その整理です。

規則性が高く、結果がすぐ返る領域では、経験則は分析を上回ります。現場の異常検知、品質の違和感、人の様子の変化。ここをデータに置き換える必要はありません。

規則性が低く、結果が返るのが遅い領域では、経験則はほとんど根拠を持ちません。価格設定、新規事業、技術選定、大型の投資判断。前提が変わり続けるうえ、判断の正否が分かるのは数年後です。

厄介なのは規則性が低いのに結果だけは速く返る領域です。短期の売上変動や、広告の当たり外れ。ここでは偶然の結果から学習が起きてしまいます。当たった記憶だけが残り、経験則が育っているように感じられます。

バイアスは、順番に組み込まれます

経験が判断を歪めるとき、3つのバイアスが一度に働くわけではありません。順番があります。

成功体験からバイアスが組み込まれていく順番

① 成功体験      判断が当たる。やり方が確認される
② 確証バイアス   以後、同じ判断を支持する情報が目に入りやすくなる
③ 現状維持バイアス  変えないことが既定になる。変える側に説明責任が生じる
④ 損失回避      変えて失う損は、変えずに失う損より重く感じられる

②から③へ移る時点で、判断は個人のものから組織のものに変わります。「社長がそう言うから」ではなく「うちはそうしてきたから」になる。ここを過ぎると、外からの指摘は届きにくくなります。

そして④が加わると、変更の提案はリスクを持ち込む行為として扱われます。提案した側が損をする構造ができあがります。

ALTEVOはこう考えています

勘を捨てる必要はありません。捨てるべきではない、と考えています。

必要なのは、判断を2種類に分けることだと考えています。

経験則で決める判断    規則性が高く、結果が速く返るもの
                    ★ 記録は不要。速さが価値
検証してから決める判断  規則性が低く、結果が遅く返るもの
                    ★ 判断の前提を1行だけ残す

後者に必要なのは、分析ではなく前提の記録です。「いま、どの前提でこの判断をしたか」を1行残しておけば、数年後に結果が出たとき、前提が変わったのか、判断が誤ったのかを切り分けられます。この切り分けができないと、経験は更新されません。

私たちが設計対象にしているのは、判断そのものではなく、この切り分けが自動的に起きる状態です。人の判断を置き換えるのではなく、判断が学習し続ける経路を作る。

ただし、これは仮説です。

反証:記録が重すぎると、誰も書きません

この提案には、はっきりした弱点があります。記録の運用は、ほぼ必ず形骸化します。

判断のたびに理由を書けと言われて、続く組織はまれです。最初の2か月は埋まり、3か月目から空欄になり、半年後には誰も見ません。そして形骸化した記録は、記録がない状態より悪い。参照できると思って見に行き、何もないと分かるまでの時間が無駄になります。

対象を絞らなければ機能しません。すべての判断ではなく、後戻りに費用がかかる判断だけです。目安として、月に数件を超えるなら、対象の定義が広すぎます。

もう1つ。経験則が固まっていること自体が強みである局面もあります。危機のとき、全員が同じ判断基準で即座に動ける組織は強い。検証を挟む余裕がない場面では、固まった経験則が組織を守ります。

次回

経験則を検証するには、外からの情報が必要です。市場が変わった、顧客の使い方が変わった、前提が古くなった。そうした情報は、たいてい社外から来ます。

ところが、その声は届きにくくなっています。

次回は、そこを扱います。届かない声は、どこで止まっているのか。

次回

次回は「情報過多という暴力」を扱います。届かない声は、どこで止まっているのか。

この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。

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