知は、どこに残っているのか
人が辞めると、判断の基準ごと消えていきます。記録を増やしても残らない会社があるのは、なぜか。
前の連載では、現場の情報が経営に届かない構造を扱いました。ここからは、届いた情報も含めて、組織に残らないという話です。
先に1つ置いておきます。知が残る会社と残らない会社の差は、記録の有無ではありません。この連載の最後の1本で、その差が何かを書きます。
「育てた人材が辞める」の前に
優秀な人が大企業やフリーランスに移り、組織の力が落ちる。この現象はよく語られます。多くの場合、話は「定着率を上げよう」に向かいます。
それ自体は正しいと思います。ただ、辞めないことを前提に組織を作ると、辞めたときに何も残りません。
人が辞めることは、止められません。止められるとしたら、辞めたときに何が残るかのほうです。
知は、4つの場所にあります
組織の知は、1か所にまとまっていません。

多くの会社で、知は人の頭に偏っています。そして人が辞めた瞬間に、その部分は消えます。
記録しても、残らないことがあります
「だから文書に残しましょう」という結論になりがちです。ここに落とし穴があります。
文書は残ります。ただし、読まれません。マニュアルは作られた時点から古くなり始め、半年後には現場の実態と合わなくなる。合わない文書を見た人は、次から見に行きません。
システムに入れても同じことが起きます。データは残りますが、なぜその設定なのかという理由は残りません。前任者が辞めたあとのシステムは、動いてはいるが誰も変えられないものになります。
人の頭 辞めたら消える
文書 残るが、読まれない
システム 残るが、理由が分からない
日々のやり方 ★ 使われ続けている限り、残る
知が残るのは、使われ続けている場所だけです。保管されている場所ではありません。
ALTEVOはこう考えています
「記録を増やす」ではなく「使われる場所に置く」が必要だと考えています。
判断の前提は、判断が行われる場所の隣にあって初めて読まれます。別のフォルダに保存された引き継ぎ書は、必要な瞬間に開かれません。見積もりを作る画面に「この取引先は締め日が違う」と1行出ていれば、それは毎回読まれます。
知を移すのではなく、知が使われる瞬間に、その前提が隣に出てくる状態を作る。私たちが設計の対象にしているのは、そこです。
ただし、これは仮説です。
反証:人に紐づくことが強みの仕事もあります
例外があります。職人の技能や、高度な専門職の判断は、人から切り離せません。
切り離せないものを無理に文書化すると、形だけのマニュアルができあがります。本人は書く時間を取られ、読む人は役に立たない。両方が損をします。
こうした仕事では、知を残すのではなく、育てる経路を残すほうが正しい。誰に何年ついて、どの段階で何を任されたか。人から人へ移る道筋のほうを記録します。
もう1つ。「辞めても回る組織」を目指しすぎると、人が辞めやすくなります。自分がいなくても回ると分かれば、残る理由の1つが消えるからです。代替可能性と、本人の居場所は、しばしば引っ張り合います。
次回
人が辞める問題の、最も大きな形があります。経営者が退くときです。
後継者が見つかっても、事業が続かない会社があります。引き継がれるのは株式と地位で、判断の基準は引き継がれていません。
次回は、そこを扱います。引き継げるのは、技術か判断基準か。
この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。