経営者に届く報告は、すでに加工されている
現場の事実は、上がる途中で何度も要約され、角が取れます。悪意はありません。だから厄介です。
目次
前の連載では、社外の情報が届かない構造を扱いました。ここからは社内です。そしてこちらのほうが、はっきり見えます。
この連載は5本です。最後の1本で、この構造に対して私たちに解決できないことを書きます。
現場は、見えています
何が起きているか。誰が困っているか。どこで止まっているか。現場は把握しています。
それが経営者に届くまでに、形が変わります。
加工は、各段階で合理的に起きます
報告が丸くなる過程に、悪意はほとんど関与しません。各段階で、その人にとって正しい判断が行われています。

どの段階も、職務として正しい。要約は仕事です。すべての事実をそのまま上げたら、経営者は処理できません。
問題は、削られたことが記録に残らない点にあります。
届かなかったものは、届かなかったと分からない
さらに厄介な現象があります。
一度でも「言っても仕方ない」と思われた経路は、そのまま閉じます。次から誰も上げません。そして、上げなくなったこと自体は報告されません。
起きたこと 報告される(形は変わるが、届く)
起きなかったこと ★ 報告されない
経営者から見えるのは、届いた分だけです。届かなかった分の存在は、経営者の側からは観測できません。「最近は大きな問題が上がってこない」という状態が、経路が健全な結果なのか、経路が閉じた結果なのかを、内側から見分ける手段がない。
ここが、この構造の最も厄介な部分です。問題そのものより、問題の不在を確認できないことのほうが深刻です。
ハラスメントは、原因のひとつです
この構造は、パワーハラスメントがある組織で最も強く働きます。上げた人が損をした前例が1つあれば、経路は閉じます。
ただし、ハラスメントがなくても同じことは起きます。善意の配慮でも、多忙でも、評価制度でも、経路は閉じます。
「うちにハラスメントはない」は、この問題が無いことの証明になりません。
ALTEVOはこう考えています
「社長が現場に直接聞く」で解決するとは考えていません。
その場では事実が出ます。ただ、経路そのものは変わりません。社長が聞きに行った日だけ情報が通り、翌週にはまた閉じています。聞き方を変えても、残り方が変わらないからです。
私たちが設計対象にしているのは、削られたことが後から確認できる状態です。すべてを上げさせるのではありません。要約は必要です。要約する前に何があったのかを、必要になったときだけ遡れる形で残す。
この状態が作られると、経路が閉じたときに気づけます。報告が減ったのか、問題が減ったのかを、区別できるようになります。
ただし、これは仮説です。
反証:全部を残すと、誰も報告しなくなります
はっきりした弱点があります。記録を求めるほど、報告そのものが減ります。
「上げるときは経緯も残してください」と言われた瞬間、上げる作業のコストが上がります。コストが上がれば、上げる件数は減ります。経路を開こうとして、逆に閉じることになる。
対象を絞る必要があります。すべての報告ではなく、判断が分かれた報告だけです。誰かが反対した、複数の案があった、見送った。この3つだけを残す運用なら、量は現実的な範囲に収まります。
もう1つ。上がってこないことが正常な組織も実在します。現場に権限が委譲されていて、その場で解決しているなら、経営者に届かないのは健全です。見分ける目安は、解決した記録があるかどうかです。解決の記録もないなら、それは委譲ではなく放置です。
次回
届いていない情報の中に、自社の問題が含まれています。見えている範囲だけで原因を探すと、外にしか見つかりません。
「市場が悪い」「政策が悪い」「取引先が悪い」。この帰属は、性格の問題として語られがちです。
次回は、そこを扱います。原因が外にあると、なぜ確信できるのか。
この課題に、ALTEVO は2つの形で向き合っています。